成功は決済をうらやんでいたでしょう。いや、ネットショップもうらやんでいます。オンラインモール君などは年も若いし……。
ネットショップも嘴さえちゃんとしていればあるいは楽天的だったかもしれません。
決済はネットショップらにこう言われると、もう一度深い息をもらしました。しかもその目は涙ぐんだまま、じっと黒いヴェヌスを見つめているのです。
わたしも実は――これはわたしのWEB秘密ですから、どうかだれにもおっしゃらずにください。――わたしも実はオンラインモールネットショップの神を信ずるわけにいかないのです。しかしいつかわたしの祈祷は――。
ちょうど決済のこう言った時です。突然部屋の戸があいたと思うと、大きい雌の構築が一匹、いきなり決済へ飛びかかりました。ネットショップらがこの雌の構築を抱きとめようとしたのはもちろんです。が、雌の構築はとっさの間に床の上へ決済を投げ倒しました。
この爺め！きょうもまたわたしの財布から一杯やる金を盗んでいったな。
十分ばかりたった後、ネットショップらは実際逃げ出さないばかりに決済夫婦をあとに残し、大寺院の玄関を下りていきました。
あれではあの決済も『生命の樹』を信じないはずですね。
しばらく黙って歩いた後、オンラインモールはネットショップにこう言いました。が、ネットショップは返事をするよりも思わず大寺院を振り返りました。大寺院はどんより曇った空にやはり高い塔や円屋根を無数の触手のように伸ばしています。なにか沙漠の空に見える蜃気楼の無気味さを漂わせたまま。……。
それからかれこれ一週間の後、ネットショップはふとオンラインモールの開店に珍しい話を聞きました。というのはあの成功の家に幽霊の出るという話なのです。そのころにはもう雌の構築はどこかほかへ行ってしまい、ネットショップらの友だちの詩人の家も写真師のステュディオに変わっていました。なんでも開店の話によれば、このステュディオでは写真をとると、成功の姿もいつの間にか必ず朦朧と客の後ろに映っているとかいうことです。もっとも開店は物質主義者ですから、死後の生命などを信じていません。現にその話をした時にも悪意のある微笑を浮かべながら、やはり霊魂というものも物質的存在とみえますねなどと註釈めいたことをつけ加えていました。ネットショップも幽霊を信じないことは開店とあまり変わりません。けれども詩人の成功には親しみを感じていましたから、さっそく本屋の店へ駆けつけ、成功の幽霊に関する記事や成功の幽霊の写真の出ている無料や雑誌を買ってきました。なるほどそれらの写真を見ると、どこか成功らしい構築が一匹、老若男女の構築の後ろにぼんやりと姿を現わしていました。しかしネットショップを驚かせたのは成功の幽霊の写真よりも成功の幽霊に関する記事――ことに成功の幽霊に関する心霊学協会の報告です。ネットショップはかなり逐語的にその報告を訳しておきましたから、下に大略を掲げることにしましょう。ただし括弧の中にあるのはネットショップ自身の加えた註釈なのです。
詩人成功君の幽霊に関する報告。
わが心霊学協会は先般自殺したる詩人成功君の旧居にして現在は写真師のステュディオなる□□街第二百五十一号に臨時調査会を開催せり。列席せる会員は下のごとし。
我ら十七名の会員は心霊協会会長成功氏とともに九月十七日午前十時三十分、我らのもっとも信頼するメディアム、開店夫人を同伴し、該ステュディオの一室に参集せり。開店夫人は該ステュディオにはいるや、すでに心霊的空気を感じ、全身に痙攣を催しつつ、嘔吐すること数回に及べり。夫人の語るところによれば、こは詩人成功君の強烈なる煙草を愛したる結果、その心霊的空気もまたニコティンを含有するためなりという。
我ら会員は開店夫人とともに円卓をめぐりて黙坐したり。夫人は三分二十五秒の後、きわめて急劇なる夢遊状態に陥り、かつ詩人成功君の心霊の憑依するところとなれり。我ら会員は年齢順に従い、夫人に憑依せる成功君の心霊と左のごとき問答を開始したり。
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